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- 2026.05.01
- 福島・庄子研究室
周期的にホウ素原子を組み込んだ高次ヘテロアセンの合成と二重発光挙動
ホウ素原子をπ電子系に組み込むと、その低い電気陰性度とホウ素上の空軌道に起因して、電子受容性が増大するとともに、電子状態や光物性が大きく変化することが知られています。こうした特徴は、有機エレクトロニクス材料や光機能材料の設計において重要な役割を果たします。私たちはこれまで、ホウ素まわりの結合様式や空間を設計することで、その潜在的な性質を引き出す「vacant orbital engineering」という考え方に基づき、新しい有機ホウ素化合物の開発に取り組んできました[1]。
上述したようなホウ素導入の効果は、π電子系の中により多数のホウ素原子を組み込むことで、さらに顕著になると期待されます。一方、このようなホウ素を多く含む分子は、合成の難しさや化学安定性の問題から、報告例は極めて限られていました。
今回私たちは、アントラセン骨格中の二つの炭素原子がホウ素原子に置き換わった「ジボラアントラセン」に着目しました(図1)。この骨格を構築する反応を工夫することで、ホウ素原子による架橋構造を介してπ電子系を一次元的に拡張した、新しいヘテロアセン分子を構築できると考えました[2]。検討の結果、六つのホウ素原子が組み込まれたヘプタセン誘導体(B6-hept)の合成に成功しました(図1)。この化合物は、これまでに報告されているヘテロアセンの中で最も多くのホウ素原子を含む分子です。さらに、この合成過程ではB6-heptとともに、副生成物として四つのホウ素原子を含むペンタセン誘導体(B4-pent)およびジボラアントラセン(B2-ant)も得られました。
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| 図1. | 本研究で開発したホウ素含有ヘテロアセン化合物. | |
一連の化合物について電子的性質を調べたところ、期待した通り、ホウ素原子の数が増えるにつれて電子受容性が段階的に増大することが明らかになりました。また、これらヘテロアセン誘導体の発光特性を調べたところ、興味深いことにB6-heptのみが顕著な二重蛍光を示すことを見いだしました(図2)。種々の条件下での分光測定と理論計算を組み合わせて解析した結果、この二重蛍光は、溶液中においてB6-hept分子が異なる配座の間を行き来すること、すなわち配座異性に基づく動的な挙動に起因することが明らかになりました(図2)。このような配座異性は、化学的安定性を確保するためにホウ素上に導入した嵩高い置換基同士の立体的な相互作用により発現します。B6-heptとは対照的に、二重蛍光は、より共役系の短いB4-pentではごくわずかにしか見られず、B2-antでは全く観測されませんでした。これらの結果は、拡張されたπ電子系と置換基の立体効果が相まって配座挙動が生じ、その結果として特異な発光特性が発現したことを示しています。
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| 図2. | B6-heptの配座異性化挙動と二重蛍光発光(λex = 355 nm. | |
本研究で得られた知見は、ホウ素を含むπ電子系分子において、立体および配座の設計が発光特性を制御する有効な指針となることを示しており、光応答性機能材料の開発に新たな可能性を拓くものと期待されます。
| 参考文献 | |
| [1] | Shoji, Y.; Kashida, J.; Fukushima, T. Chem. Commun. 2022, 58, 4420 (DOI: 10.1039/D2CC00653G). |
| [2] | Yokochi, T.; Yokoyama, H.; Tsukada, T.; Sakai, H.; Hasobe, T.; Fukushima, T.; Shoji, Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2026, e3365679 (DOI:10.1002/anie.3365679). |





